第20章 きみにより 思ひならひぬ 世の中の
「自分は人間には戻れないと思っていたけれど、珠世さんと話をするようになって初めて希望が見えた気がした。杏寿郎と出会ってから初めて、また陽の光の下を歩きたいと思ったから…だから、私にできることがあるなら協力する。だから、もし治療薬を開発することができたら…その時は…」
再び、人としての道を。
「…でも、未来は漠然としていて。二百年以上かけて研究を続けても、珠世さんができたことは一人の青年を鬼に変えることだけ。だから、私も"いつかは"という気持ちでいた。いつか、人に戻れたら。例えそれが何十年、何百年かかっても…いつかは」
「……」
「杏寿郎が人生を全うするその時まで寄り添うつもりでいたから、この体が元気でいられることは、いいんだけど、ね」
「……」
「槇寿郎さんにも、そう話をしたし。私は絶対に死なない、最期まで杏寿郎の傍にいるって。その想いが伝わってくれたのかわからないけど、だから槇寿郎さんも私のことを考える余地…を……杏寿郎?」
力なく微笑みながら、それでも最期まで傍で慕い続けると。そう告げる蛍の体を、手繰り寄せるように抱きしめていた。
「どうしたの…?」
「…蛍は…俺の人生そのものに、寄り添おうと覚悟してくれていたんだな」
「家族になるって、そういうことでしょ?」
鬼と人とは生きる時間の長さがまるで違う。
杏寿郎には未知の感覚だったが、それは体感速度にも差はあるのかもしれないと思った。
杏寿郎にとっては長い一生でも、蛍にとっては瞬くような出来事かもしれない。
共に歩むことはできても、そうして必ず最後に残されるのは鬼である蛍なのだ。
独りに、なってしまうのは。
「……」
優しく響く蛍の"家族"という言葉があたたかい。
あたたかく、そして堪らなく切なくも感じた。