第20章 きみにより 思ひならひぬ 世の中の
それでも問いかけなかったのは、そこまで深追いすべきことでもないと思ったからだ。
カキ氷に中てられた直後でもあった為、単に蛍の気力がないだけとも捉えられた。
それがまさか新たな鬼が原因だったとは。
「だがその鬼のことを俺は知らない。柱も知らない鬼が、本部に潜伏しているのか?」
「ううんっ違うの。珠世さんは外部の鬼だから、本部にはいないよ。本人も、本部(そこ)には行けないって言ってた。辿り着けないからじゃなくて、鬼としての恐怖心から。だから本部とは何も関わりない」
「…知っているのは竈門少年だけと言う訳か」
「それと、多分…お館様も」
「! それは真か」
「うん。はっきり確認した訳じゃないけれど、炭治郎が一度お館様に珠世さんの名を告げられたことがあったらしくて。あれはきっと聞き間違いじゃなかったって」
「お館様程の先見の明があれば、可笑しくはない話だ。しかし何故我ら柱にも黙っておいでなのだろうか…」
「…今は、そうすべきだと、思ったからじゃ…ないのかな」
難しい顔で杏寿郎が考え込めば、蛍はすんなりと答えを口にした。
「鬼にとって柱に自分の存在を知られることは、隊士にとって上弦の鬼に目を付けられることと同じだよ。いつ何処で寝首を掻られるかわからない。…珠世さんの気持ちは、私にもわかるから…だから、私も今まで黙っていたの」
「……」
「でも、杏寿郎だから話した。鬼という存在だけで、珠世さんをきっと否定しないと思ったから」
「…お館様は、意味があったからこそ竈門妹のことを容認したまま二年間沈黙していた。その女性のことも、意味があっての沈黙なのだろう」
難しい表情は変えられなかったが、蛍の言いたいことも耀哉の気持ちも汲むことはできた。
「彼女は医師だと言ったな。それがきっかけだったと」
「うん」
それから、珠世という奇妙な鬼のことを蛍の口から聞いた。
数百年も前から無惨の呪いを断ち切り、生き永らえている鬼だということ。
医師としての技術と知識を持ち、鬼を人に戻す為の研究を続けていること。
その為に、より無惨の血を濃く受け継いだ鬼の血を研究材料として求め、炭治郎に協力してもらっていること。
その協力を、蛍も買って出ていること。