第20章 きみにより 思ひならひぬ 世の中の
誰だって愛するひとを残して逝きたいなどとは思わない。
出来得るなら、そのひとの最期の瞬間まで共にいたいと願う。
しかし蛍のそれは、願望の前に決定事項なのだ。
鬼である限り、人の死は見送らなければならない立場。
珠世という女性が連れ立っているのは、同じ時を刻むことができる鬼である青年だ。
禰豆子は特例で、意識は幼子のように後退しはっきりと自我が残されているかもわからない。
その意識を鮮明に残し、人の中で生きている蛍が見る世界は、果たしてどんなものなのか。
考えるだけでやるせなさが募った。
(…いや、違う。今は感傷に浸る時じゃない。そんなことは、やるべきことを全てやり切った後だ)
募るその想いを呑み込むように、杏寿郎は固く唇を結んだ。
決意をしたばかりで、まだ努力の一つもしていない。
蛍の人としての未来が完全に断たれた訳でもないのに、一人で勝手に未来を想像して落ち込むなと自らを叱咤した。
「…ありがとう。父に、そこまでの覚悟を告げてくれて」
蛍の両肩に手を添えると、身を離して微笑む。
父は、蛍一人ではなく其処の馬鹿も一緒に考えるべきことだと言った。
(父上の言う通りだ)
生きる時を刻む速度は違えど、一人で抱えさせるつもりなどない。
蛍だからその手を握ったのだ。
生半可な思いで求めた訳ではない。
「俺達にもし子ができた時は、その先のことはその時共に考えよう。俺も自身の意志で炎柱の道を選んだ。出来得るならば、我が子にも自身の意志で道を拓いて欲しいと願う」
「…うん」
「もしかしたら、案外早くその決断は来るかもしれないしな」
「え?」
「勿論、蛍を人間に戻すことが第一優先だ。だが鬼だから子を宿せないとは、誰が決めた? 鬼舞辻が直々に告げた訳でもないだろう」
「でも、経水がこなくなってしまったのに…」
「鬼の特徴の一つが異常な再生能力だ。月経は、子宮内膜の欠損によるものだと聞いた。出血を伴うと言うことは、所謂"怪我"と同じ現象ともなる。外部に排出される前に、子宮内で鬼の細胞がそれらを取り込み再生している可能性も考えられるはずだ」
「そんなことあるはずな…い……ことも、ない、かも…」
「うむ」