第20章 きみにより 思ひならひぬ 世の中の
蛍から洗いざらい奪っていくというのなら、奪い返すまで。
助け上げてくれる偶然などないというのなら、必然を作り出すまでだ。
この世は浮世。
そんな言葉で片付けてなるものかと、杏寿郎は強く言葉を紡いだ。
「鬼の始祖である鬼舞辻ならば、鬼を人に戻す方法も知っている可能性は高い。それがお館様の見解だ」
「…もし、知らなかったら…?」
「ならば見つけ出させる。蛍を人に戻すまで、そいつの頸に刃を突き付けて。できないなどとは言わせない」
常に見開いているような双眸が、瞼を僅かに下げる。
見据えるようにして告げる杏寿郎の瞳には、冴えた殺気が宿っていた。
「俺の手で必ず蛍を人間に戻してみせる。その為なら例えこの手足を捥がれようとも、鬼舞辻の頸に喰らい付いてやろう」
例え可能性が低くとも、皆無ではないのなら。
例え皆無であっても、それなら別の可能性を見つけ出すまで。
諦めてなるものか。
屈してなるものか。
蛍をここまで貶めた悪鬼などに。
「ぃ…嫌、だよ。杏寿郎の手足が、なくなるなんて…」
「君がどう言おうとも覆す気はない。今ここで決めたんだ」
自分の代で必ず鬼の始祖を滅するつもりではいた。
そうすればきっと父も己を見てくれるだろうと、才を持てなかった千寿郎が自責の念に駆られることもなくなるだろうと思っていた。
しかし腹から底冷えするような殺意を抱いて、己の手で必ずその頸に刃を立てると決意したことはなかった。
「例え蛍が俺の子を宿せなくても、手放すつもりは毛頭ない。我が家の為に君を選んだ訳じゃない。俺が君との未来を歩みたかったからだ」
例え手足を失っても構わないとさえ思えた。
引き換えに蛍との未来が築けるのなら。
「君の体が本来"そう"であるならば受け入れた。しかし鬼が故の理由なら、それは受け入れるに値しない。授かりたいと望んでくれたように、俺も蛍との子だから望んだんだ」
初めて蛍を抱いた夜、本気でそれを願った。
杏寿郎と生きていきたいと、涙ながらに願う蛍を前にした時、間違いなくこの世で一番の幸福を感じたのだ。