第20章 きみにより 思ひならひぬ 世の中の
「…違うの」
しかし蛍の顔色は晴れなかった。
躊躇するように視線を逸らし、泳がせる。
口を開いては閉じる。
迷うように揺らぎながら、蛍は浴衣の裾を強く握った。
「鬼になってから…私、経水がきたことが、ないの」
経水(けいすい)。
一瞬聞き慣れない単語に反応は遅れたが、知識としては杏寿郎も学んでいたことの一つ。
それが何を示すものなのかすぐに理解できた。
月に一度の間隔で、女性の体に起こり得る子宮内膜からの出血。所謂、月経である。
「食事を取らなくてよくなった代わりに、排泄の必要も、なくなったみたいで…したことが、ないの」
鬼として摂取が必要な血肉はある。
その栄養は全て鬼の体内で吸収されているのだろう。故に排泄は必要なくなったのだ。
でなければ鬼の禰豆子も、長い間木箱の中で眠り続けることなどできない。
人としての生理現象は鬼には不要なものなのだ。
「経水も、それと同じに…こなくなって、しまって…」
途切れ途切れに、か細い声で告げていく。
蛍の顔は徐々に下がり、俯いた。
「だから…私…」
排泄と等しく、月経も不要なものだと鬼の体が判断していたのなら。
「…赤ちゃんが、つくれない、の」