第20章 きみにより 思ひならひぬ 世の中の
「煉獄家の家族となるなら、炎の呼吸の後継者は作らないで欲しいって」
「……」
「槇寿郎さんの気持ちもわかった。それだけに心血を注いで生きてきた槇寿郎さんだからこそ、それでも一番守りたかった人は救えなかったから。細かい事情まではわからないけれど、鬼殺隊の柱となる道が全てではないと、そう、言いたかったんだと思う」
「…父上が…」
にわかには信じ難かった。
あんなにも煉獄の名に誇りを持っていた父が、と。
それでも同時に理解もできた。
炎の呼吸など、炎柱など、なんの意味もないと罵られてきたからこそ。
「だから、それはいいの。槇寿郎さんも、後継者に育てるなと言うつもりで、子を産むなとは言わないと、そう言ってくれたから。…杏寿郎の気持ちは、わからない、けれど…」
「…だから父上も、俺も考えるべきことだと。そう言ったのか」
話の核心はわからなかったが、蛍と父が大事な話をしていたことはわかった。
『その、すぐに答えは出せませんが…考えて、みます。もし、その願いを私なりに、飲み込めた時は…どうぞ、宜しくお願いします』
『…考えるなら、其処にいる煩い馬鹿者もだ。蛍さん一人で抱えることじゃない』
自分も含めた事柄だ。なんのことかと気にはしたが、その場では問いかけなかった。
ようやく受け入れたであろう槇寿郎の意思を乱したくなかったこともある。
自分が声を上げればすぐに噛み付かれることを、杏寿郎も重々承知していた。
それだけではなく、蛍一人で抱えるなと告げて去った父には、ここ最近全く見ていなかった他人への気遣いを感じられて一人嬉しくもなったものだ。
それが、こんな話をしていた結果だったとは。
眉を寄せて難しい顔をしていれば蛍の視線を感じた。
不安そうに見てくる瞳に、やんわりと笑みを返す。
「子を授けるなと言われた訳ではないのだろう? それだけ、父上が蛍を認めて下さったというのは喜ばしいことだ。心配はいらない」
我が子を炎の呼吸の後継者としない。
驚きはしたが、安易に否定する内容でもなかった。
後継者は基本は男児だ。
もし蛍との間に女児を授かったなら、自由に生きる道を選ばせるつもりだった。