第20章 きみにより 思ひならひぬ 世の中の
「きょう、じゅろ…」
水面に映る月のように。
とろりと蕩けた瞳で、惚けたように名を呼ぶ。
杏寿郎の絶頂など容易く飛び越え、何度も果てていた蛍のこと。故に思考も回っていないのだろうと、唇を紅のように濡らす血を、指の腹で優しく拭い取った。
気にした様子のない蛍は血など見ていない。
何より鬼が求めるものを気にも止めず、杏寿郎だけを緋色の眼に映す。
「おなか、ずっと、きもちい…」
生暖かな熱が、じわじわと広がっていく。
蛍の体を、奥底から杏寿郎の色へと染め上げていくように。
「苦しくはないか?」
「苦しいのも、きもちよかった、の。杏寿郎に触られるところ、ぜんぶ」
最奥を熱い男根で突き上げられれば、少しの苦しさと、それを上回る快感に、頭は真っ白になった。
「…癖になりそう」
互いの熱を分かち合ったまま。杏寿郎の肩にぴたりと顔を寝かせて、蛍は艶やかな溜息をついた。
「だいすき。杏寿郎」
すり、と頬擦りをして、力の入らない両手を縋るように背に回す。
愛おしげに、甘い甘い声を漏らして。
タガが外れたのか、いつもなら恥ずかしそうに甘えてくる姿とは似ても似つかない。
それはそれでとても愛らしいと思うのだが、素直に愛情を吐露する見慣れない蛍に杏寿郎は強く唇を結んだ。
(俺の方が癖になりそうなのだが…!)
下手したらまた下半身に熱を帯びそうで、全集中に心血を注ぎ耐える。
あられもなく快楽に溺れる蛍の姿もそそられるが、今はこの甘え全開な蛍を堪能していたい。
「蛍…もっと言ってくれ。もっと、君の口から君の想いが聞きたい」
いつもなら聞く以上に伝えたい気持ちが先走って、杏寿郎側から想いを告げることが多かった。
それを恥ずかしそうに受けながらも「私も」と答える蛍が、堪らなく愛らしいと思っていた。
その感情に嘘はない。
しかし今は、その少し舌足らずな声でなんのしがらみもなく告げる蛍の想いが聞きたかった。