第3章 春の痛み
答えずに黙っていると、沈黙の中で空気が震えた。
乙骨くんの吐く息が、ほんの僅か、規則を変えた。
「……こ、怖い……?僕」
「え……そんなことないよ?怖かったら、こんな風に部屋に来ないし。ずっと大丈夫かなって不安になったりしない」
顔を上げて答えると、強ばっていた乙骨くんの表情が柔らかくなっていった。
そんな彼を見て、私も胸を撫で下ろす。
乙骨くんはずっと、そんな風に思っていたのだろうか。
自分は"怖がられる存在"だ、って……。
そっと、膝に手をつく。
「怖くないよ。私、乙骨くんのこと、怖くない」
「ありがとう。一色さん、好きだなぁ……」
乙骨くんの膝についている指が、ピクッと反応した。
何気ないひとこと。
何か、特別なことがあるわけじゃない。
そんなことはわかっていた。
それでも心臓が大きく音を立てる。
嬉しいと――。
「私も」
高鳴りを隠すように、笑った。