第5章 約束を乱すもの
「――ちょっと待てよ」
いつもより低い声でそう言った御幸。
スマホを取り出しかけた私の腕を掴んで、続けて鳴に言った。
「いくらなんでも、目の前で敵チームに情報交換許せるほど余裕あるチームじゃないんだわ」
「はぁ?連絡先交換のどこが――」
「つーことで、俺からお前に連絡してやるよ」
さっきまでの不機嫌を隠すような笑顔で御幸は鳴にそう言った。
鳴も御幸の圧に何も言えなくなったのか、
「わぁったよ、その代わり絶対だからな!」
そう言って帰っていった。
なのに、御幸は掴んでる私の腕を離そうとしない。
私たちの間に少し無言の時間が流れた後、
「俺達もさっさと帰るぞ」
「……うん」
そう答えると御幸は私の腕を離した。
そして無言のまま少し前を歩き出した。
なんで御幸はあんな顔していたのだろう……
なんだか聞いちゃいけない気がした。
さっきまで握られていた腕がじんわりと熱くなるのを感じながら、私は御幸の背中を見つめる事しか出来なかった。
御幸side
ユキを送って寮に戻った俺は、部屋に戻る気になれずバットを振っていた。
なんでこんなにモヤモヤするのか分からず、ただひたすら空を切る音を聞いていた。
「こんな時間に素振りとか、珍しいじゃねえか」
「倉持か……別に、ちょっと振りたくなっただけだろ」
今1番関わりたくないやつが声をかけてきた。
「ふーん。新マネ絡みじゃねえの?」
「は?なんでそうなるんだよ」
俺は振っていたバットを下ろした。
「お前さ、自分で首絞めてんの気づいてる?」
「……は?」
「今日のあれ、完全に牽制だろ。取られたくねえなら、もうちょい分かりやすくしろよな」
「取られるってなんだよ、そんなんじゃねえよ。ただの幼なじみだって……」
そう。ただの幼なじみ――――なのか?
この違和感や鳴とのやりとりで感じた苛立ちは……
「その顔は、ただの幼なじみに対しての顔じゃねえと思うぞ」
「……うるせ」
そう言いながらも、頭の中では今日の光景が思い浮かぶ。