第13章 12★
「……今夜、だめか?」
今度は、最初よりもっと静かだった。
熱に浮かされた勢いじゃない。
ちゃんと、みかの返事を待っている声。
そのせいで余計に、胸が苦しくなる。
サンジの手はまだ頬に触れたままなのに、無理に引き寄せたりはしない。
ただ近くで、じっと見ている。
みかは視線を逃がせなくなって、小さく息を吐いた。
「……それ、ずるいです」
「ん?」
「そんな真面目に言われたら……断りにくい」
サンジが少しだけ困ったように笑う。
「本当はもっと余裕ある感じで誘いてェんだけどなァ」
冗談めかした口調
なのに目だけ全然笑ってない。
本気だ
その事実が、言葉より先に伝わってくる。
船が小さく揺れる。
みかこはゆっくり視線を落として、繋がれた手を見る。
あの人混みの中で掴まれたままの手。
見つけた、って。
離さないみたいに。
「……曖昧なの、嫌なんです」
小さな声で言うと、サンジの指先がぴくりと動いた。
「ちゃんと、好きとか……そういうの、ないままなのに」
サンジは数秒黙って
それから、観念したみたいに息を吐いた。
「……好きだよ」
あまりにも自然に落ちてきた言葉に、みかこの呼吸が止まる。
「とっくに」
低くて、静かな声だった。
甘く口説くみたいじゃない。
誤魔化しようのない、本音。
「優しくしてェだけなら、こんな必死になってねェ」
額が触れそうなくらい近づく
「見失った時、マジで血の気引いた」
その声が少し掠れていて、みかこは胸がぎゅっと痛くなる。
サンジがゆっくり目を伏せた。
「……だから、今夜一緒にいたい」
触れる寸前の距離で、返事を待っている。
急かさずに
でも、逃がす気もないみたいに。