第10章 前日
最後の夜。
思い出の軒下。
雨は降っていないのに、そこだけ変わらないまま残っている
みかは、気づけばそこに立っていた。
昼間の「明日出る」という言葉が、まだ胸の奥に残っている。
風は静かで、音は遠い。
足音
分かっている気配
サンジが、何も言わずに軒下へ入る。
並ぶでもなく、離れるでもなく
ただ同じ場所に立つ。
サンジは煙草に火をつけない
壁に軽く寄りかかる
「……最後だな」
小さく言って、視線を外す
みかはすぐに返せない
サンジが、何か言いかけて止まる。
ほんの一瞬、距離が詰まる
言葉の代わりみたいに、唇が触れる
短く、確かめるような一瞬だけ
すぐに離れる
サンジは何も言わないまま、目を伏せる
みかも、何も言えない。
ただ、胸の奥だけが少しだけあたたかいまま残る。
夜だけが、少しずつ深くなる。