第8章 買い出し
通りはまだ明るかった
海風が抜けて、港町の音が遠くまで広がっている
サンジはパンの袋を持ち直しながら歩く
何でもない動き
ただの癖のようなもの
そのとき、みかの指先と一瞬だけ触れた
ほんのかすかな接触
何もなかったように歩き続ける。
サンジは視線を前に向けたまま、軽く息を吐く
みかも特に反応は見せない
でも、歩幅がわずかにずれる
ほんの少しだけ。
サンジは気づいて、無意識に歩調を合わせる
それもまた自然に。
通りを曲がる。
少しだけ人が増える。
サンジの肩が、ほんの一瞬だけみかに近づく
触れる直前で止まる。
そのまま何も起きずに離れる。
サンジは袋の持ち方を変える
動きが一瞬だけ遅れる
みかが半歩遅れる
サンジはそれに気づいて、歩幅を落とす
何も言わない。
ただ揃える。
その繰り返しが、少しずつ増えていく。
会話はほとんどない。
必要なことだけが短く交わされる。
「次だな」
サンジの声はいつも通り。
みかはうなずく。
そのときの空気だけが少しだけ変わった。
何でもないはずの時間が、少しだけ長く感じられるようになっていく。