第2章 Lesson1 ただ、撫でるだけ。
――姿くらまし特有の、ゴム管を通り抜けるような気持ち悪さと同時に、視界がぐにゃりと歪んだ。
と、思った次の瞬間に見えたのは、見知らぬ天井だった。それだけではない、古びた梁、少しだけ傾いた照明、どこか生活感のある匂いに、レイは理屈抜きにホッとした。
「よし!! 成功だ!!」
シリウスの高らかな声が家中に響いた。そればかりか両手を広げ、まるで戦勝報告でもするかのようなテンションである。
その叫び声を聞きつけたもう一人の同居人が、バタバタと部屋に入って来た。
「大丈夫だった!?2人ともケガはない!?」
「ハリー!!」
あれからたった10日しか経ってないのに、もう何年も会っていなかったように感じる。レイが思わずハグをすると、ハリーはそれを優しく受け止めた。
「久しぶりだなハリー、キングズリーの家はどうだった?」
「完璧だったよ。仕事が出来る上に家事も完璧でさ。ホント同じ人間なのかなって疑問に思うレベル」
それに料理もすごく美味しいんだよ。と、ハリーは横目でシリウスを見ながら言った。
……まあ、確かにどれもシリウスに欠けている要素だが、レイは先ほどのド派手な脱出劇を思い出し笑ってしまった。さっきまでの張り詰めた空気が、嘘みたいに軽い。
「でも大丈夫なのかな?」
「何が?」
「相手は“あのマルフォイ”だよ?3秒後には追いかけてきそうな……」
「大丈夫だ!奴らはこの家の場所を知らないし、きちんと結界も貼ってある」
そんなことより、部屋割りを決めよう!と、シリウスのテンションは止まるところを知らなかった。余程3人で暮らすことを夢に描いて生きてきたのだろう。
傍から見ていると、こっちまで胸がポカポカするような幸せな温度が伝わってくる。
「さあ!部屋割りを決めよう!先ずはレディーファーストで、レイから選ぶと良い」
「いや、ここは家主のシリウスから……」
「私はどこだって良い、君たち2人が居てくれるなら!」
本当に、呆れるくらい幸せそうに笑うシリウスの背後に、錯覚だろうか大きく振っているしっぽが見える。
ハリーも同じものを感じたのか、レイと2人顔を見合わせて笑ってしまった。