【ヒロアカ】名前のない関係の終わらせ方【爆豪勝己】
第2章 2
一方透は、帰宅してもなお爆豪に苛立ちを覚えていた。
「そんなに怒んなくても良かったのに…過保護な母親みたいだ…。」
自宅のソファに寝転がり、天井を見つめる。
スマホはテーブルの上。通知は何もない。——静かだ。
苛ついている理由が、爆豪のせいだけではないということは自覚していた。
——人付き合いが面倒くさい。期待してしまうから。
大切な人ができるのが面倒くさい。信頼が崩れた時の苦しみが耐え難いから。
人に好かれるのが面倒くさい。自分の好きが上回った時に、逃げられるのが怖いから。
透は人間関係において、自分自身を守るため、適切な距離を保ってきた。大切な人が増えるとそれに気を取られて、自分が弱くなるから。
高校の時、大好きな人がいた。全てを捧げるくらいに没頭した。好きになりすぎて、けれどその愛から逃げられて、絶望を知った。もう、二度と傷つきたくなかった。
あの日の痛みは、時間が経っても消えはしない。薄くなるだけ。ふとした瞬間に蘇る。——例えば、今みたいに。
山吹色の目を細めて、透は腕で視界を塞いだ。
——だから、セフレでいい。深く踏み込まなくていい。期待しなくていい。「好き」を言葉にしなくていい関係。それが楽だった。楽なはずだった。
なのに今、苛立っているのは何に対してだ。
——あの目。苦しそうに歪んだあの顔を、見て見ぬふりした自分の胸が、ちくりと痛んでいる。
——まるで親のようだ。心配して、口を出して、縛ろうとして。でもそれは心配じゃない。あれは。
嫉妬だ。どう取り繕っても。
わかっていた。わかっていたから苛ついた。
——期待してしまうから。
透の中で、何かが軋む。これ以上踏み込まれたら、あの距離まで来られたら。また失った時に、今度こそ立ち上がれなくなる。だから線を引く。いつものように。傷つかないように。
面倒くさい。全部面倒くさい。——そう思い込まないとやっていけない時があることを、たぶん透自身が一番よく知っている。
吐き気がして、トイレへ駆け込む。
過去の絶望感のフラッシュバックと爆豪の傷付いた表情への後悔と、全てを胃の中から吐き出す。
「ダメだこりゃ…。」
生理的な涙を流したまま、一人孤独を抱えていたことを、まだ誰も知らなかった。