第10章 霧の屋敷の裏側
ニナは久しぶりに厨房へ立ったこともあり、少しだけ緊張していた。
ポトフの残りを利用した即席オムレツは、使用人達の間では定番の賄い料理で人気もある。
だが、コックがゾルディック家のために考えた正式な料理と比べれば、かなりいい加減なものだった。
イルミは食卓の皿へ銀のスプーンを入れ、ただ黙って食べている。
ニナは水差しをテーブルへ置いてから、しばらくその様子を見ていた。
美味しくないのだろうか。
けれど、残す様子もない。
反応の分からなさに、ニナは少し落ち着かなくなる。黙々と食べ続けるイルミから視線を逸らし、厨房の片付けを始めた。
小鍋を洗い、何度も布で拭き直す。
水音だけが厨房に響いていた。
「ご馳走様」
不意にイルミの声が落ちる。
振り返ると、イルミはもう立ち上がっていた。そのまま何も言わず、すっと居間を出ていく。
ニナはしばらくその背中を見送った。
それから食卓へ視線を落とす。皿は綺麗に空になっていた。
ニナは最後にその皿を片付ける。桶で洗い、布で水気を拭き取って食器棚へ。
そして小さく呟く。
「……これで良かった、のかな」