第3章 崩れゆく調律
次の日も、家事はいつも通り続いた。
掃除、洗濯、食事の準備。
合間にできたわずかな時間、ニナは居間のテーブルに楽譜を広げる。
「ニナ姉」
服の裾を、小さな手が引いた。
見下ろすと、キルアが立っている。
「一緒に遊ぼう」
その声に、走らせていたペンが止まる。
(少しくらいなら)
そう思いかけて、ニナは楽譜に目を戻した。
「……ごめんなさい。今日は、遊べないの」
「えー、どうしてだよ?」
ニナは、答えなかった。視線を落としたまま、楽譜に目を戻す。
キルアの手が、少しだけ裾を掴んだまま止まる。それから、ゆっくり離れた。
何も言わないまま、ただ寂しそうに視線を落としてから、離れていった。