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色彩を拒んだ瞳に、最強の影を

第2章 不完全な聖域


朝食のスープを流し込み、ようやく一息つけるはずの7時ちょうど。

自由時間という名の貴重な休息を貪ろうとした私の前に、人類最強の「壁」が立ちはだかった。

「……おい。ノア。お前はこっちだ」

向かう先は兵長の執務室。

本来の清掃担当ではないはずの場所に連行される私に、周囲の同情混じりの視線が突き刺さる。

「兵長、私の担当は廊下のはずですが」

「廊下は他の奴らにやらせる。お前には、その死に急ぎたがる根性の代わりに、この部屋の煤を払ってもらう」

嫌だ、と言える空気ではない。

私は無機質に感情を押し殺し、差し出された雑巾を受け取った。
10分ほど黙々と掃除を済ませる。
「……終わりました。失礼します」

完璧に磨き上げたはずだった。しかし、兵長は無言で棚の隅をなぞり、指先に付いた見えないほどの塵を私に見せつける。

「甘いな。お前の命のやり取りと同じだ。……やり直せ」

信じられない。

私は内心で「まじでなんだこいつ……」と呆れを通り越して引き気味に彼を見つめる。すると、兵長は距離を詰め、私のおでこを人差し指でぴしゃりと小突いた。

「……っ」

「そんな顔をしても無駄だ。ほら、雑巾を持て」

指先が触れた額が、妙に熱い。

掃除という名の理不尽な命令。でも、なぜかこの人の前では、あの青空を想う暇もなかった。


……その夜。ベッドに横になっても、不思議とおでこの熱が引かなかった。

明日もまた、あの理不尽な7時が来るのだろうか。

溜息を一つ吐き、私は重い瞼を閉じた。
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