第1章 シークレットメロディ
「あーって、まさかビンゴ?」
「なわけないでしょ」
「なんだよ違うのかよ面白くねーな」
「あたしに面白さを求めないでくださいよ」
「お前があっち系だったら泣くヤツ多いからな。それ想像すると笑えんのに」
「変な噂流さないで下さいね。巻き込まれるのはごめんなんで」
ただでさえ人付き合いの苦手なあたしにそんな尾がついたらと考えると頭が痛くなる。
器用に切り分けてよそってくれた取り皿をあたしの目の前に置いた太刀川さんに、視線だけでもう一度釘を打つ。
噂なんてくだらねーもん流すかよ。
ぼそりと溢した言葉に相反して口元がだらしなく弧を描いてるからタチが悪い。けれど口外も吹聴もしないのはよく知ってる。
この憎らしい表情は単に反応を見て楽しんでいる時のそれだ。
知り合った当時は何度も振り回されてた彼の言動も付き合いが長くなるにつれ、少しずつ免疫が付いてきた。
だからはいはいそーですねと、あたしも気持ちのこもってない相槌を投げることができるんだと思う。
「望月、それ取って」
「……これ?」
「いやちがう、そっち」
「はい、どー、……っ」
「っと、あぶねー、いきなり離すなよ」
太刀川さんの指があたしのに触れて、反射的に引っ込めたのがいけなかった。
焼けた鉄板の上に危うくぶちまけるところで、辛口と書かれたソースが太刀川さんの手に救われる。
すいません。
冷たい汗が出そうになる前に謝罪をすると、それこそ冷たい目をした彼と視線が合った。
「お前さ、」
「………」
「あからさまに嫌がるのやめろ」
「すいません」
「そこそこ信用されてると思ってたけど、」
「いや、あの、」
「友達とそうじゃない女の区別ぐらいちゃんとつけてるっつの」
そんなに嫌なら断りゃいいだろ、俺からの誘いも。
ごもっともだ。太刀川さんの言い分が全て正しい。反論なんてする気もないけどぐうの音も出てこない。
無表情でじっと見てくる彼の視線が痛すぎてまつ毛を伏せるも、気配までは消えてくれなくて焦る。
何か言わないとと思えば思うほど喉の奥に張り付いたままの言葉があと一歩押し出せずに、嫌な沈黙だけが漂ってた。