第1章 シークレットメロディ
小さな頃からずっとそうだったから、みんなそうだと思ってた。だってまさか自分だけだなんて知らなかったし思えなかったし、誰も教えてくれなかった。
この歳になって浮かれた話しの1つも出てこないのは、そう言う理由も含まれているからだった。
「え、まじで?じゃあなに、お前ってひょっとしなくても処女なわけ?」
「そう言うこと普通聞きます?しかも露骨に」
「いやだって、今までオトコと付き合ったことないって言われたらそう思うだろ」
「思わなくていいですよ気持ち悪い」
目の前の鉄板から食欲を刺激するソースの香ばしい匂いが立ち込めて、かつお節が踊る円形の中央部にコテを突き刺さしたまま目を丸くする太刀川さんを、睨みつけるように見つめてやる。
大学の中庭を横切ろうとしたところで珍しく最後まで講義を受けていたらしい太刀川さんとばったり出会した。普段多忙な彼がこの時間帯にいるのは稀なことで。
久々に飯でもどうよと誘ってくれたから、じゃあお好み焼きが食べたいと、近くの店に入ったのが1時間前。
同じ学部のあの子が可愛いとか、声をかけてきたファンの子がエロかったとか、あたしからすればかなりどうでもいい情報を一頻り聞かされた後、そう言えば望月から恋バナとか聞いたことねーな。
駆けつけ一杯で注文した生ビール片手、半分ほど一気に煽ってから話題をあたしの恋愛事情にすり替える。
別に嫌いじゃないし隠す気もないしでおおっぴらにしてみれば、大袈裟に驚いた態度と少しのセクハラが返ってきた。
今時中学生でももっといろいろヤってんぞ。そう後付けまでして。
「それともあれか?アッチの趣味でもあんのか?」
「アッチの趣味?」
「同性愛者とか」
「あー、」
それは初めて言われたかもしれない。
今までのパターンなら極度の人見知りかこれまた極度の男嫌いか。
高校時代はそのどちらも当てはまった人物像が勝手に一人歩きをしてくれたおかげで随分と生活がしやすかった。
かと言って、理想が高いわけでもお高くとまってるわけでもない。
体質的に異性は少し苦手ってのはあるけどそこまで毛嫌いしているわけじゃなくて、何となく牽制していたほうが楽だったから。
あたしが同性愛者か。
型にハマらない切り口は太刀川さんらしいけど、残念。女の子を恋愛の対象に見たことなんて生まれてこのかた一度もないわ。
