第2章 迷宮のダンジョン
あの人は自分の興味のあるものだけに、その全精力を注ぎ込むんだ。だから厳しいけど、丁寧だし分かりやすい。右も左も分からないど素人を一から教え込む大変さは尋常じゃないだろうに。
根気よく付き合ってくれるから一言の文句も甘えも絶対言えなかった。
「ねぇ」
だけど思考は別。頭の中は無法地帯。何を思ったって何を考えたって誰にも知られない独擅場。
「ねぇってば」
だから今だけは許して。ちゃんと頑張るから今だけは言わせて。
あの戦闘バカ、毎回毎回ぼこぼこにしやがって。いつか絶対寝首をかいてやる。
「ちょっとおねーさん」
「へ?あ、あたし?」
「そうだよ、さっきから声掛けてんのに無視しないでよ」
「ご、ごめん!ちょっと考え事してて」
ソファーの背もたれに頭をあずけて、手足も放り投げるような体勢は浅く腰掛けていたのもあってか、突然声をかけられて派手にずり落ちそうになった。
慌てて視線を合わすと、可愛い顔をしてるくせ、感情を隠しもしない不機嫌な表情の男の子。
ここへ連れて来られて数週間。太刀川さんと迅さん、オペレーターの国近さんに出水くん。それ以外の人に話しかけられたのは初めてだった。
「どうしたの?」
「あんたさ、迅さんの彼女?」
「はい?」
「だーかーらー、迅さんの彼女なのかって聞いてんの!」
なんだこの子。いきなり何言ってんだ。ていうか、誰?隊服着てないし、でも迅さんのこと知ってるし、ここの関係者の子供?
なんでもいいけど、そのいかにもな雰囲気どうにかなんないの。敵意剥き出しで突っ立ってちょっと怖い。
「違うよ?彼女じゃないよ」
「でも昨日仲よく話してたよね?友達なの?ていうかおねーさんもボーダー?強いの?ランクは?何位なの?」
だからなんなんだってば。いきなり話しを振ってきて、それも見るからに友好的じゃない姿勢で捲し立てて何が聞きたいのよ。
あたしは今それどころじゃないの。疲れてんの、午後からまた辛い時間が始まるの、お願いだからそっとしてて。