第2章 迷宮のダンジョン
1日最低4、5時間。土日はぶっ通しで、そこまでしてやっとスタートライン。
分かってた。自分の運動能力と機転の悪さと地味にビビりな性格じゃ、それだけやってもギリギリだし物覚えも人より悪い。
トリオン体は生身より身体機能が跳ね上がるって言ってたけど、それでもその身体機能とやらを動かすのは自分の脳だ。
いくら飛躍的に伸びてようが頭が追いつかないと手も足も出ない、寧ろ縺れる。
それに、分かってないこともあった。
「望月、先メシ食ってこい。俺これから会議だから2時間後にブース前な」
「はい」
くっそ腹立つ。頭に浮かんだ言葉が音にならなくて良かった。聞かれたら午後からの模擬戦と称したあたしいじめ、絶対本数増やされてた。そんなの死んでもごめんだ。
8時間ぐらい会議してきてくれないかな。そうなったらあたしはソッコー帰る、絶対帰る、瞬時に帰る。
背中を見送りながらやる気も根気もない本音が出てきて、だって仕方ないんだよと無理やり正論付けてみる。そうでもしないとスパルタすぎて心が折れそうだった。
ブース前のロビー、併設された自販機のカフェオレを無意識に押したのは、疲労で糖分が不足してるからだと思う。
お昼ご飯は食べる気になれなくて、ソファーに座りながらどこにも合っていない焦点をとりあえず天井に向けた。
分かってなかったこと。それは太刀川さんがあんな厳しいと思わなかったこと。
あたしがグロッキーになった翌日、嫌だ嫌だと散々ダダを捏ねて拒否ったランク戦の見学は、俺のは見ても気持ち悪くなんねーから、とかなんか訳分かんないことほざかれて無理やり見せられた。
なんだよその理由、ほんとこの人馬鹿だ。そう思ってた自分の思考は太刀川さんの言った通りになった。気持ち悪いとか、見てられないとか、そんなこと考える余裕もなかった。
ただただ唖然。
ただただ凄い。
全戦闘員の頂点。
長くそこに君臨し続ける男は、あたしの知ってる人とは全くの別人みたいに見えた。
体たらくのあの太刀川さんが、実は二重人格なんじゃないのとか。ほんとは人間の皮を被った悪魔なんじゃないのとか。私生活が分かってるだけに、そのギャップにびびった。でもそれで見えたものもある。