第1章 シークレットメロディ
有名になりたいから、ちやほやされたいから、かっこいいから。はたまた知名度なんて二の次の、力になりたい、市民の無事と安全を最優先に、不正を見て義慎を感じる気持ちが強い人。
例えばテレビでよく見るあの赤い隊服の人なんかはこっち寄りなんだろう。
あとは親族や大切な人の命を、異界から入ってくるなんとも言えない気味の悪いロボットに奪われた人、か。
そのどれもに当てはまらないより寧ろ掠りもしない、体力も学力も平均より上回ったことのない一市民のあたしに、寝言は寝て言えなんて思ってた。どうせ度の過ぎる冗談なんだろうとも。
傘をさすかどうか迷うほどの雨がさっきからずっと体を濡らして、駅を降りてすぐのコンビニで買ったビニール傘を片手で開いた。
迅さんに背中を向けて歩き出すも、視線と気配は一向に消えてくれない。
吐き捨てた言葉の返答なんて無視してやるつもりだったのに、寒いし濡れてるし迅さんは傘すら持ってないし。
これで風邪でも引かれてあたしのせいにでもされたらそれこそたまったもんじゃないともう一度足を止めた。
「あのね迅さん、もう何度も何度も言ってるけど、あたしはボーダーになるつもりなんてないんですよ、これっぽっちも」
「うん、今は、ね。でもこの先は違う」
「この先もなる気はないです!なんで迅さんに先のことなんて分かるんですか。他人のあたしの人生に茶々入れないで」
「なんで分かるかって言われたら説明が難しいな。…………まぁ、強いて言うならおれの勘?ってやつ?」
「ほんとふざけるのもいい加減にして下さいね、あとその格好、早く帰って着替えたほうがいいですよ、風邪引く前に」
「そう思うなら入れてってよ、花衣ちゃんの家まででいいからさ」
「はぁ?どこまで図々しいんですか全く」
度の過ぎる冗談はいつからか、度の過ぎるストーカーに変貌した。
そのことに気づいているのかどうなのか、悪びれる様子なんて微塵も見せない迅さんはいつもヘラヘラ笑ってあたしを見る。
その笑顔と高いコミュニケーション能力で警戒心をそぎ落とすつもりだろうけど、そんなもので落ちるほど子供じゃないしバカでもない。それにこの人はいつもどこか胡散臭い。
胡散臭くて何を考えてるのか分からなくて、時折見ているものが何か違うものを映してるんじゃないかとさえ思う。