第7章 子猫のふりして虎は笑む
「研磨くんは変わったよね」
「そう?」
「うん、なんて言うか、エロくなった」
「なにそれ」
「ごめん!言葉間違えた!色気が増して良い男になった?」
「それもちょっと意味わかんない」
「たまにドキッとする時あるもん」
「………へぇ、そうなんだ」
私は今何を喋っているんでしょうか。意味が分からないのは重々承知だ。だって私が1番何言ってるのか分からないんだもん。
息を吸って吐き出す喉が震えてる。水に濡れた手のひらは、内側からもじわじわと体温を奪ってく。残り2枚の食器をこれでもかと丁寧に洗い続けるのは、理子たちが帰宅するまでの時間稼ぎだ。
見れないだけで、さっきからずっと視線が刺さってるのも、片付けが終わった後の、2人きりの空間も、全部無理。ドキドキしすぎて爆発する自信しかない。
人を好きになる時、いつも初対面でなんとなく波長が分かる。いいなと思ってお互いの雰囲気が甘くなって、そうして晴れて恋人同士が常だった。
友達枠からいきなり急上昇って、そんな展開私は知らない。だからどう振る舞うのが正解なのか分からないのに。
それでも研磨くんは、言葉を続ける。私の心情なんてまるっきりお構いなしで。
「なら、」
「うん?」
「好きになってみる?」
「…………へ?」
「残りのお皿下げてくるから花衣はここお願いね」
「……あ、うん、………はい」
食えない男とは、不敵な笑みで、こっちの痛いところを面白おかしくつついて煽る。
自分のペースに引き摺り込むのがプロ級に上手くて、そして底は絶対に見せない。
今頃仲良く買い物している黒髪の長身を思い出して、あんな風に分かりやすければ、どれほど良かっただろうか。
研磨くんが草食の皮を被った、食えない肉食男だったなんて思ってもみなかった。