第6章 ノーサンクス・スイートハート
「ちょっとトイレ」
「はーい」
ここへ来て僅か数分。爆速で終わった私の報告、を聞いた彼女はフロアの奥にある化粧室へと消えていく。姿が見えなくなったのを確認してから、さて、今度は私の番だと思ったらにやけそうになる口元は止められなかった。
「見過ぎですよ、理子のこと」
「そちらさんも俺のこと見過ぎじゃないでしょうか」
「やべっみたいな顔してたの笑いそうになりました」
「理子ちゃんには内緒にしててね、恥ずかしいから」
彼女を見てる黒尾さんを、私が見てると気づいたあの瞬間、目が合ったのにものすごい勢いで逸らした黒尾さんは、明らか彼女に好意があるんだと思う。さっさとくっ付いちゃえ、とは思うものの、付き合う前のもどかしい感じって楽しいもんね、当事者も傍観者も。
2人が楽しそうならそれでいいや。カフェオレの中に浮かんでる氷を、ストローでつつきながら呑気にそんなことを考えていると、ところで花衣さん。変に畏まった黒尾さんが、言葉を繋ぐ。
「なんですか」
「実際のとこ、どうなのよ」
「どう、とは?」
「研磨だよ研磨」
「黒尾さんまでなんでもかんでもぽんぽんくっ付けようとしすぎでしょ。研磨くんとはただの友達なのに」
「もし研磨が友達以上に思ってたらどうする?あ、これは仮説ね」
黒尾さんの直球は、理子とはまた違う含みのある声色をしていたから、咄嗟に警戒心が出てしまいそうになる。
仮説と言われても、正直困るよ。そんな風に研磨くんを見たこともないし、そんな素振りだって研磨くんは見せたこともない。周囲が勝手に囃し立てて、あわよくばくっ付けようかみたいな風潮になりつつあるのは、今日の2人を見てたら分かるけど。
それでもそこにはお互いの矢印の一致、が大前提なわけで。とりあえずいっとけ!なノリは高校生までだよ。