第5章 微熱、微糖、微々たる鼓動
隣の研磨くんは、窓の外の、流れていく景色を見ている。その横顔が、反対車線を走っている車のライトに照らされて、あまりに妖艶で大人びて見えて、その色気に当てられた私は頭がイカれたのか、酔いが加速したのか、こんなタイミングで今朝の夢を思い出してしまった。
あの夜が最後だった。駅の改札口で互いに手を振り合って別れてから、数年。なんとなく連絡しづらくて、彼からも連絡がくることはなくて。
そうして先日のあの再会。
幾重にも偶然が重なって、また今日会えることができたのに、
「ゆっくり話せなかったのは嫌だったな」
大学はどこなのとか、最近ハマってるゲームはなに?とか。もうバレーはやってないのとか。
「色んな事聞きたかった」
「聞いていいよ」
「………へ?あれ?もしかして声に出てた?」
「おもいっきりね」
拾われるはずなんてない。だって思ってただけだし。そう言い訳できなかったのは、研磨くんにちゃんと拾われて返答までついてきたからだ。
「なんなら今から来る?おれの家」
「……は、い?」
「2人っきりだから、ゆっくり話せるよ」
窓の外の光がうるさい。逆光で彼の顔がよく見えない。どんな表情でそんなこと言ってるのかわからない。
でもこれだけはわかる。
研磨くんも絶対酔ってる。じゃないとこんなこと言うわけない。
「眠いから今日は帰ります」
「じゃあまた改めて誘うよ」
「そうしてくれると助かります」
「いや言い方」
酔いが理由、だけでは到底済まされない私の顔の温度は、さっきよりも格段に上がった気がした。