第4章 【直哉×無関心女中】
その翌日から、禪院家の空気は一変した。
といっても、直哉が急に柔和な男になったわけではない。
彼は相変わらず不遜で、門下生には厳しく、言葉も鋭い。
けれど、に対する態度だけが、誰の目にも明らかなほど「大切」を孕んだものに変わっていた。
朝、廊下を掃除する彼女の横を通り過ぎる際、彼は足を止める。
以前なら「見窄らしい」と吐き捨てていたはずのその背中に、彼はただ静かに視線を落とす。
「……無理はしぃなや。
お前が倒れたら、この家の廊下は誰が磨くんや」
嫌味のような、けれど確かな気遣いが混じった言葉。
直哉は彼女の掃除という「仕事」を奪うことはしなかった。
それが彼女の矜持であり、彼女を形作る唯一の「生」であることを理解したからだ。
代わりに、彼女の環境が整えられていった。
手荒れが酷かった彼女の部屋には、最高級の薬草から作られた塗り薬が置かれ、冬の冷え込みが厳しい夜には、上質な綿の布団が届けられた。
「主君の気まぐれ。……いつか、飽きられるまでのこと」
はそう自分に言い聞かせ、淡々と日々の務めをこなした。
直哉がどれほど高価な品を与えても、彼女はそれを「預かり物」として扱い、自分から欲しがることはなかった。
彼がかけた呪い——「自分には何も手に入らない」という絶望は、それほどまでに深く、彼女の芯に根付いていたのだ。