第5章 真名とは
「ねぇ玄?……何か知ってるの?神和住家のこと……」
濡れた手が頬を撫で、優しく口付けられる。まるで、"何も聞くな"と言うように……玄は本当に私に話すつもりはないんだ。全てを知っているくせに。
唇が離れて、首筋を吸われた。赤い花の跡を残し、持ち上げられる。胸を隠しているとジッと見つめられ、迫力に圧されて玄の肩に手を置く。空気に触れた胸の先が、熱い口内に吸い込まれていった。
「んっ……玄、ねぇ教えて。ぁ……なんでそんなに、私のことを想ってくれるの?」
静かな翡翠の瞳に見上げられ、その麗しさに息を呑む。私はただの人間なのに、元々神だった妖の玄は、真っ直ぐに私を愛してくれる。
ゆっくり身体を下ろされ、脇の下から抜けた指が突起を摘んだ。ビクッと跳ねた身体が水面を揺らす。
「……我は……其方の、真名を知っておる。其方の母上が我に託したのだ。守ってくれと……」
「はっ、あ……真名?母様が?……それより、真名って……んっ、神和住梓ではないの?」
玄は微笑み、「違う」と呟いて抱え上げる。そのまま川から上がり、服を着た。少し歩き、廃れた社を見付け、今夜はここで休もうと準備をする。
枯葉や焚き木を集め、火を熾しても玄は、何も言わなかった。あの日の真実も、私の真名も……想ってくれている理由も曖昧のまま、夜が更けていった。