第5章 心を揺さぶるエレジー【パンダだって/葦を啣む】
「まさみち」
渋谷の戦いが及ばない穏やかな森の中、夜蛾が大木に腰を下ろしていると、ネクタイをつけた犬の【呪骸】――タケルに名前を呼ばれた。
「みんな 心配してるよ、元気がないって」
「そうか」
「だから 僕、言ってやったんだ。元気がなければ、元気づければいいって」
「そうか」
「天才だろ?」
――「本当にいいんだな? “コイツ”はオマエの甥ではない。甥の情報を持った“何か”だ」
タケルは、現在は一級術師に名を連ねる日下部 篤也の妹の心を救うため、彼女の息子の情報で造った【呪骸】だ。
親指を立てて得意げに言うタケルに、夜蛾は「そうだな」と頭を撫でてやる。
「タケル。すまないが しばらく帰れない。皆にもそう伝えてくれ」
「また出張?」
「あぁ。長い出張だ」
不満そうに眉を下げるタケルに、夜蛾は重々しく頷いた。
「大丈夫。この森は天元様が守ってくれている。オマエの母さんも、また会いに来てくれる」
それにな、と夜蛾は続ける。
「ある男にオマエたちのことを頼んでる。たまに様子を見に来るだろうから、仲良くしてやってくれ」
「どんなヤツ?」
「……バカみたいに真面目で、寂しがりなヤツだ」
「そっかぁ。じゃあ、寂しそうにしてたら 俺たちで励ましてやるよ!」
ニカッと笑うタケルに見せている自分が、どういう顔をしているか分からなかった。
――大丈夫だ。俺がいなくなっても……大丈夫。
巨木の根元の小さな扉を開き、身を屈めて通ろうとしたところへ、「まさみち」と【呪骸】たちが呼んできた。