第6章 クレッシェンドに高まる熱【賭け試合】
「連れが来たんで、もういいですか?」
そう言うと、女は「はいはい」と両手を上げて降参の意を示す。
「ごめんね。こんな可愛い彼女ちゃんがいると思わなくて、声掛けちゃった」
詞織の頭を撫でる女に、「触るのやめてください」と言って払いのけた。
「じゃあ、おやすみなさい」
女はクスクスと笑い、去って行く。その姿が完全に見えなくなって、伏黒は息を吐いた。
「で、オマエはこんな時間になんで出歩いてんだよ。危ねぇだろ」
「それはメグも同じでしょ。絡まれてたくせに」
そこは言い訳できない。思わず言葉を詰まらせていると、詞織もオレンジジュースを買い、伏黒の隣に腰を下ろす。
「……考えてた。兄さまの様子、変だったなって」
詞織も気づいていたのか。伏黒も、星也の津美紀に対するアプローチが妙に消極的であることに疑問を持っていた。
――「結界内がどういう状況かも分からない以上、下手に接触しない方がいいだろう。最悪、出会い頭に殺し合いを強制される――ということも考えられる」
星也の言わんとすることは分かる。だが、その言葉も建前のような気がしていた。
それに 今までの星也なら、真っ先に津美紀の様子を見に行ってくれているはずだ。仮に傍に行けなくても、それができるだけの手段を持っている。
「たぶん、何か考えがあるんだろ」
そう口では言いつつも、伏黒も詞織も不安は拭えない。
津美紀を助けるつもりがないわけでないのは分かっているが……。
「もし 本当に兄さまに津美紀を助ける気がないっていうなら……わたしが津美紀を助ける」
「バカ。“わたしが”じゃねぇ。“わたしたち”だろ。勝手に一人でやろうとすんな。どんな手を使ったって……」
――津美紀は必ず助ける。
固い決意と共に缶コーヒーを握りしめると、ミシッと缶が小さく音を立てて凹んだ。
* * *