第5章 心を揺さぶるエレジー【パンダだって/葦を啣む】
禪院家の石造りの階段を、真希が真依を背負って下りてきた。
「真依ちゃん!」
悲鳴を上げるように桃が呼んで駆け寄ろうとするが、人が変わったような真希の異質な気配に怖気づき、その場で小さな肩を震わせる。
「だから、あたしは……行くなって……っ!」
箒を握りしめて嗚咽を漏らし、顔を赤くして桃が泣きだした。
そんなやり取りを見ながら、垂水は奥歯を噛み締め、拳を握り込む。
「……この……くそったれ……っ!」
取り繕うことも忘れ、地面に下ろされた真依に縋りつく桃を、「退け!」と乱暴に押しのけた。
生気を失い、青白い顔で瞼を閉じる真依の胸倉を掴んで揺さぶりたい衝動を抑え、垂水は真希を睨みつける。
「一応 姉貴のアンタに許可 取っとくわ。“生き返らせていいよな”?」
異質な気配――わずかに感じていた呪力が、真希から消え失せている。
呪力から完全に脱却した、フィジルカルギフテッドの完成型――真希の異質な気配はそれが原因だろう。だが、そんなものに怯むほど柔な精神はしていない。
「垂水くん、そんなことができるの⁉」
「黙ってろ。今、オマエに聞いてない」
怒りで脳が焼ききれそうだった。それでも、理性を総動員し、真希を見据える。
「真依はたぶん望んでない」
「そんなモンどうでもいいだろ。死者の尊厳を律儀に守ってるかなんて、コイツらは知らねぇ。生者の苦しみを死者が知らねぇのと同じ理屈だ」
母が父をどう思っていたのかも、父が死んでどれだけ悲しかったのかも、垂水は知らない。
同じように、死んだ母だって、遺された自分がどう思うかも、どんな人生を送っているかも知らない。