第5章 心を揺さぶるエレジー【パンダだって/葦を啣む】
禪院 直哉は天才だと皆が言っている。
父の跡を継いで当主になるのは直哉だと。
そんなとき 直哉は、禪院家に落ちこぼれがいると聞いた。
“男のくせに”、呪力が一ミリもないらしい。
どんなショボくれた人なんだろうか。
どんな惨めな顔をしているのだろうか。
……あの日のことは、一生忘れない。
その人物――禪院 甚爾の姿を見て……直哉はその存在感に圧倒された。
・
・
・
【投射呪法】を使いながら、直哉は高速で拳を打ち出した。しかし、真希はその拳を全て捌いていく。不意に真希の腕を掴み、フレームに収め、踏み抜きながら岩壁に吹き飛ばした。
さらに、畳み掛けるようにして何度も蹴りを叩き込む。
――違う! オマエは……オマエは、甚爾君やない‼︎
雑魚の罪は強さを知らないこと。誰も甚爾を理解していなかった。
おそらく……五条 悟を除いて。
オマエやない。
アッチ側に立つんは――オレや‼︎
ひたすらスピードでゴリ押しし、直哉は真希に連撃を喰らわされる。反撃の暇など与えない。ただひたすら……このスピードについて来れるわけがない。
【投射呪法】は、過度に物理法則や軌道を無視した動きは作れない。同じく、速度も術式発動時の加速度には限度がある。
逆に、絶えず術式を重ねれば重ねるほど、出せるスピードは上がっていく。
もう止まらない。あのときの脹相戦のようなヘマはしない。
力は重さと速さ! 最高速度でブチ抜く‼︎
真希を囲むように駆け抜けていると、不意に彼女は足を踏み締めた。ミシッと地面に亀裂が入る。そして、腰を低く落とし、パンッと両手を叩いた。