第5章 心を揺さぶるエレジー【パンダだって/葦を啣む】
「真希……っ!」
真希が父である扇に斬られ、意識を失った。だが、真依の傷も深く、駆け寄ることもできない。
「刀身を折り、間合いを縮めたと判断し、深く踏み込んだな。だから オマエは駄目なのだ。私は剣士ではない。術師だ。出来損ないの物差しで私を測ろうなど――笑止千万」
為す術もないまま、扇に首根っこを引きずられ、真依は真希と共に引きずられていく。
「何度でも言うぞ。私が前当主に選ばれなかったのは、オマエたちのせいだ」
直毘人の術式は歴史が浅く、相伝であるか否かはそこまで争点にはなかった。術師として、ただ一つを除いて兄に遅れをとったことはない。
「唯一 ――子どもの出来のみ。子が親の足を引くなどあってはならない」
「知らないの? この国では、足の引っ張り合いが美徳なのよ」
助け合い――という名の、足の引っ張り合い。互いを補い合うこと。それが、この家にはない。
真依の言葉を歯牙にもかけず、扇は己の子をある部屋に突き落とした。階段を転げ落ちた先で、悍ましい呪力に晒され、背筋が震えた。
「ここは訓練と懲罰に使われる部屋だ。二級以下の呪霊を無数に飼っている。今は私に怯えているが、じきにオマエたちを喰いに這い出てくる」
呪霊の薄気味悪い声が耳を突く中で、扇の視線が気を失った真希に向けられる。
「……【天与呪縛】――フィジカルギフテッド。それが何だ? 我々 術師は日々 鍛錬した肉体をさらに呪力で強化して戦う。真希、オマエの力など、皆 手抜かりなく持っているのだ」
まるで真希の向こう側に誰かを見ているような、そんな気がした。
「さらば――我が人生の汚点」
吐き捨てるようにそう言って、扇は部屋を去る。部屋に静寂は訪れず、変わらず呪霊が意味のない言葉を繰り返しながら、こちらの様子を虎視眈々と窺っていた。
倒れて気を失った真希の頭を膝に乗せ、痛々しい火傷の痕が刻まれた頬に触れる。胸元に手を当てると、心臓ははっきりと鼓動を打ち返してきた。
「さすが、しぶといわね」
いつか……こうなるんじゃないかって、思ってた。
「――……最悪」
そっと……真依は己の半身に口づけた。
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