第5章 心を揺さぶるエレジー【パンダだって/葦を啣む】
「真希、戻りなさい。忘れたの? 忌庫への立入りは私たちには緩さ荒れていないわ」
「当主様がいいって言ってんだよ」
厳しい声音で諫めてくる母に、真希は忌庫の鍵を見せた。
「――戻りなさい‼」
怒鳴りつけてくる母をも無視し、忌庫へと向かう。
「……どうして? どうして あなたはいつもそうなの? 一度くらい、産んで良かったと思わせてよ……真希」
呪力のない人間は、この家では人間ではない。
ずっと そう言い続けられた真希の心には母の言葉など……もはや響くことはなかった。
母を置いて先を進み、鎖で閉ざされた忌庫の扉の錠前の鍵を回す。ザァァ…と鎖が巻き上げられ、轟音を立てて扉が開いた。真希は中へ足を踏み入れ――止める。
「親父……‼」
そこでは、父である禪院 扇が忌庫の床に腰を下ろして待ち構えていた。
「ここに呪具はないぞ、真希。“オマエたち”の動向を見越して、空(から)にしておいた」
オマエたち?
違和感のある言い回しに眉を寄せると、扇はその場を立ち上がる。父の後ろでは、双子の妹である真依が床に伏せていた。
「本当に来たのね……バカなんだから――真希」
「真依⁉」
瞠目する間に、扇が納刀した状態で構えをとる。
――秘伝【落花の情】
纏った呪力により、触れたモノを迎撃する領域対策【落花の情】を居合に転用。
万が一の交渉材料として生かした真依、真希の所持する未知の呪具――それら不測の事態に備えつつ、渾身の一振りを放つ。