第5章 心を揺さぶるエレジー【パンダだって/葦を啣む】
「こうする気やったら、始めっからそう言えや」
「オマエが先走りすぎなんだ、直哉」
椅子に腰をかけ、机に足を乗せた直哉は、正面に座る従兄の禪院 甚壱をジロリと睨みつけた。
これが分かっていれば、わざわざ東京まで足を運ぶ必要はなかった。【九相図】に敗北することも、星也や乙骨に屈辱を受けることもなかっただろう。
「確かに、伏黒 恵はオマエより幾分マシだ」
「あ?」
「五条家との関係の修復の契機として後押しする声も少なくない」
かつて、御前試合で両家の当主が殺し合いを行ったことをきっかけに、禪院家と五条家の関係は悪化した。
その関係を修復したいと思っている一派は、五条家当主 五条 悟の教え子である伏黒 恵を当主に据えることに全面的に賛成だ。
確かに、現代最強と謳われる五条は、敵に回すより味方に取り込んでいた方が何かと有効だ。関係修復は甚壱も賛成である。
「だが、全財産を伏黒 恵に譲るというのは、俺たちも到底 納得できない」
「じゃあ、何をトロついとったん?」
「伏黒 恵は五条家だけでなく、加茂家次代当主 加茂 憲紀、神ノ原一門当主 神ノ原 星也とも友好な関係を築いている」
理由もなく消せば、立場を悪くするのは禪院家。五条 悟が封印され、変動する勢力争いに遅れをとることになる。
「それは分かったけど、なんで今なん?」
「総監部の通達をろくに聞いていないな?」
二.五条 悟を渋谷事変 共同正犯とし、呪術界から永久追放。かつ、封印を解く行為も罪と決定する。
「――利用しない手はない」
――五条 悟 解放を企てた謀反者として、伏黒 恵、真希、真依を誅殺する。
甚壱の言葉に、直哉はクックッと喉を鳴らして笑った。
「実の娘も殺した方が、信憑性が増すもんな」
「あぁ。それにより、総監部からの信頼もより強固となる」
「でも、それでいいん? 扇のオジさんは」
尋ねると、甚壱は「フッ」と鼻を鳴らし、出された茶を口に含み、コトリと茶器を机に置く。
「発案者は扇だ」
その言葉に、直哉は「へぇ」と口角を上げた。
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