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彼はアイドル。

第5章 I want your flavor.






ピピピ、と無機質な音が寝室に響いた瞬間、隣にいた拓人の体がわずかに強張るのが分かった。
彼は迷いなく手を伸ばしてアラームを止め、深く一つ息を吐く。その瞬間に、昨夜の甘く熱を帯びた「寺西拓人」は、内側の奥深くへと仕舞い込まれた。

「……ん、おはよ。」

体を起こした彼の声は、すでに低く、落ち着いている。

カーテンを開け、差し込んできた光の中で着替えを始める拓人の背中は、178センチの逞しさと、数多のステージをこなしてきた自信に満ちていた。

彼は姿見の前で、昨夜うさみが解いたシャツのボタンを一つひとつ、下から上へと留めていく。
それはまるで、自分の心に「アイドル・寺西拓人」という鎧を着せ直しているようだった。

「送っていけなくてごめん。……ここ、タクシー呼んでもエントランスの奥まで入ってくるから。誰とも顔合わさずに帰れる」

「……ありがとう。大丈夫。」

拓人は最後にジャケットを羽織り、うさみの元へ歩み寄った。
彼は彼女の額に、慈しむような、でもどこか「またいつか」という区切りを感じさせるキスを落とした。

「行ってくるわ。……連絡する」

ドアが閉まる音が、静かな部屋に響く。

一人残されたうさみは、彼が去ったばかりの広いベッドに再び身を沈めた。
そこには、まだ鮮烈に彼の匂いが残っている。
枕に残った彼の髪の匂い、シーツに染み込んだ微かな香水の残り香、そして自分の肌にまとわりつく、彼と重なり合っていた時間の熱。

さっきまでそこに彼がいたという証明が、目に見えない「香り」となって、うさみを優しく包み込んでいた。
うさみは自分の手首を鼻に近づけ、深く息を吸い込む。

昨夜、彼が言っていた『俺と同じ匂いがする』という言葉が、甘い痛みとともに蘇る。
家に帰らなければならないのに、この余韻から抜け出すのがもったいなくて、うさみはしばらくの間、彼が残していった『Flavor』の中に溺れていた。











end...


主人公のマンションは「背伸びして選んだ、安心して会える場所」。対して彼の家は「プロの生活を守るための要塞」。

なんかC1流すって言葉よくないっすか?笑
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