第4章 面倒な彼の要求。
テレビの画面内では、華やかなセットと共にイントロが流れ出した。
「あ、次だって! 始まるよ!」
うさみはソファの背もたれに預けていた体をバッと起こし、食い入るように画面を見つめた。その瞳は、さっきキッチンで甘い雰囲気だった女性のそれではなく、完全に「最前線のオタク」の熱を帯びている。
隣に座る拓人は、そんなうさみの横顔を、少し面白そうに、そして誇らしげに眺めていた。
(……そんなに真剣に見る? 俺、真横にいるんだけどな)
なんて思いながらも、画面の中の自分が映るたびにうさみの肩が微かに揺れるのを見て、彼は内心ニヤついていた。
「…………」
曲が終わる。
最後のキメポーズが映し出され、画面がスタジオに切り替わると、うさみは口元で小さく、けれど噛み締めるようにパチパチと拍手をした。
「……おぉー……」
拓人は、ここから始まるはずの「怒涛の拓人褒めタイム」を待っていた。
『今日の拓人のあのステップ、最高だった!』とか、『やっぱり拓人のダンスが一番好き』とか。
彼はすでに、照れ隠しの言葉をいくつか用意して、背筋を少しだけ伸ばして待機していた。
ところが。
「…………しの、ダンス上手くなったねぇ」
うさみが、客観的に真っ直ぐな称賛を口にした瞬間。
それまでうさみ肩を抱いてリラックスしていた拓人の手が、一瞬だけ止まった。
「……あぁ。あいつ、最近居残りしてまで詰めてたからね。結果が出て良かったよ」
声はあくまで落ち着いていて、メンバーの成長を心から認めている「大人の男」のトーン。……なのに、拓人はそれ以上言葉を続けず、手元のコーヒーカップをじっと見つめている。
「……? てら?」
「ん? 何」
「……なんか、急に静かになったから」
「別に。……大輝が褒められて嬉しいのは、俺も同じだし。あいつが伸びれば、グループとしての厚みも変わるからね。……うさみの目に留まったなら、あいつの努力も報われたってことだ」
完璧。
完璧なコメントだ。……けれど、拓人はそのままコーヒーを一口飲むと、カップを置く音が少しだけ、ほんの少しだけ机に響いた。
そして、彼はソファの端に体をずらし、うさみとの間に絶妙な「物理的距離」を作る。