第3章 至近距離で拝む自担の顔。
ソファの上で重なり合い、拓人が彼女の首筋に甘く鼻先を寄せていた、その時。
テーブルの上に置かれた、彼のスマホが短く、鋭く震えた。
「……っ、仕事?」
うさみが少し身を起こそうとすると、拓人は「無視」と言わんばかりに腕に力を込めた。けれど、二度、三度と続く執拗なバイブレーションに、彼は小さく舌打ちをして、仕方なく手を伸ばす。
「……チッ、風磨からだ。悪い、ちょっと待ってて」
さっきまでの、とろけるような「甘えん坊てら」の声が、一瞬で消えた。
拓人は体を起こすと、うさみの膝から降り、ソファに背筋を伸ばして座り直す。
わずか数秒。
メッセージに目を通し、返信を打ち込む彼の横顔から、柔らかな「恋人の温度」が急速に引いていく。
「……、……、……。……あぁ、なるほど。構成案のB、演出上の不備が出たのか」
低く、落ち着いた、それでいて冷徹なほどに理性的な声。
彼はスマホを片手に、頭の中でステージの図面を広げているのか、視線が虚空の一点に固定される。
うさみはその横顔を、息を呑んで見つめていた。
眉間に寄った深い皺、少しだけ尖らせた唇、そして、一瞬で「戦う男」の鋭さを纏ったその瞳。
(……あ、これ……私の大好きな、『アイドルの寺西拓人』だ)
さっきまで自分の胸に顔を埋めていた男と、今、目の前で数万人の人生を背負って決断を下そうとしている男。その凄まじいギャップ。
「自担」としての敬意と、「彼女」としての独占欲が、うさみの中で激しく混ざり合い、熱を持って疼き出す。
「……よし。これで通るはず」
返信を終えた拓人が、スマホを置いて、ふぅと深く息を吐いた。
そして、隣で硬直しているうさみに気づき、ハッとしたように表情を緩める。