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彼はアイドル。

第2章 お手振り王子の誕生日。




「……もうっ!……ちょっと、他の男って!ステージに立ってる『アイドル』の話でしょ。そこは妬くとこじゃない」

至近距離にあった拓人の顔を軽く押し返して、うさみはくすくすと笑った。そのまま、彼の腕の隙間を鮮やかにすり抜けて立ち上がる。

「飲み物、淹れ直してくるね」

キッチンへ向かううさみ後ろ姿を、拓人はソファに肘をついて、どこか恨めしそうに眺めている。
そんな彼の視線を背中に感じながら、うさみはケトルを火にかけ、無意識に(あるいは、ちょっとした悪戯心で)小さく鼻歌を漏らした。

「……♪ふふふふんふん……らぶケンティー……」

歌詞もそこしか分からないような、ほんの小さな鼻歌。
けれど、静まり返った深夜のキッチンでは、その一節は驚くほど鮮明に拓人の耳に届いた。

「…………おい。聞こえてるからな」

ソファの方から飛んできた低い声に、うさみは「あら、バレた?」と肩をすくめる。

新しい飲み物を用意してリビングに戻ると、そこには案の定、絵に描いたような「ジト目」でこちらを睨んでいる拓人がいた。

「なに、その顔」

「なに、じゃないわ。今さらっとC&R(コールアンドレスポンス)やったね? 31歳初日の俺の前で、それをやる勇気だけは認めるわ」


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