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【呪術廻戦】誰も知らない

第13章 私の名


2018年10月31日。
八重は脹相との忠告通り渋谷には近づかなかった。
渋谷には。

夜の明治神宮外苑。
並木道沿いのベンチに八重は一人腰を下ろす。
昼間の喧騒はどこにもなく、街灯に照らされるいちょうは微かな風でもサワサワと音を立てる。
半分ほどになった下弦の月は空高く浮かび、落とす銀色の光は街灯と混ざって八重の影を際立てる。
八重はただ空を見上げ、意識を研ぎ澄ます。
夕日が沈み、十分暗くなった頃から急に脹相の気配が何か1枚、幕に包まれているように遠くなった。
これは結界や封印の中にある時の感覚。
何かが起こっている。
八重がそう判断するには十分過ぎる感覚だった。
風が髪を撫で、時折遠くの車のライトが並木の隙間を通り過ぎる。
もう3時間ほどそうしている。
体温が身体の外側からじわりじわりと削られていくのを感じる。
少しずつ自分が外気に馴染んでいく。

突然、今まで薄く感じていた脹相の気配がいつもどおりの感覚に戻った。
そして、その数分後には平坦だった脹相の感情がガラリと変化するのを感じた。
瞬時に増す緊張と興奮。
怒りと憎しみ。
深い復讐心とそれを抑える冷静な心。
根底にある弟を思う時に感じる温かさ。

(これって…)

きっと弟の仇である者と対峙しているに違いない、と八重は理解した。
もし八重が予想した通り、夏油傑が加茂憲倫の縁者だとして、それにつく脹相はきっと呪詛師側。
そうなると対峙しているのは呪術師ということになる。
どちらをとっても人間である。
できれば脹相には人を殺してほしくない。
しかし、脹相が弟たちと支え合っていた150年を思えばそんな八重の願いなど塵より軽いだろう。
ただ今は胸の前で手を組んで、脹相の感情を受け取りながらこの戦いの行く末を見守ることしかできない。
時折見える痛みの感情。
それを受け取っても八重に痛みが走るわけではない。
けれども、眉を顰めてしまう。
今まで感じたことのないほど鮮明で激しい感覚。
戦闘とはこれほどに感情の激流下にあるものなのだろうか。
感情だけで八重の心臓はバクバクと激しく脈打つのに、脹相は仇を前にして戦っている。
八重にとって想像を絶する。
そんな状態がしばらく続き、そして落ち着いた。
決着が着いたようだ。
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