第21章 繋縛
八重は身を隠す地下室への階段を転がるように下り、這いずるようにソファに登ると自らの身体を抱きしめるように丸まった。
前に痛みを肩代わりした時は〝繋がり〟で八重の痛みが脹相に知られてしまった。
2度目があれば八重の力について何か勘付かれてしまうかもしれない。
そうならないために八重は痛みで白みそうになる意識を必死で内へ向ける。
〝繋がり〟は一度切れば再び結び直さない限りは途絶える。
しかし、繋がった状態なら〝繋がり〟の強度は調整できる。
ステレオのボリュームを絞るように繋がりを弱める。
そうすれば感情はほとんど流れていかないし、気配で場所も辿れないだろう。
そのまま眠るでもなく、痛みで思考が停止したような状態がしばらく続いた。
不意に〝八重、どこにいる?〟と微かに、しかし確実に聞こえた。
どうやら脹相が正気を取り戻したようだ。
八重としては出来ることなら痛みがなくなるまで自分の存在に気づいて欲しくなかった。
こちらに来られようものならこの全身の痛みを隠し通せる自信はない。
八重が返事を出来ないでいると今度は名前を呼ばれる。
何度も、迷い子を探すように。
何度も何度も、縋るように。
彼から呼ばれる名前は、ひりつく心を羽毛のように撫でてこそばゆい。
思わず意識を向けたくなる。
その度に、それだけはダメだと鎖を引いて窘める。
それなのに。
〝八重。頼む、返事をしてくれ〟
『頼む』だなんて、脹相からそんなことを言われるのは初めてのことで。
そんなことを言われれば、八重が黙っていられる訳がなかった。
〝……脹相、私は大丈夫です〟
返事をすればすぐに〝今、どこにいる?〟と問われる。
あまり長いこと話したくはないのだが、しかたなく〝地下室に〟と答える。
〝…どうしてそんなに、痛みがあるんだ〟
八重が危惧した通り、痛みの感情が伝わっているようだ。
まだ力の存在まで感づかれているかはわからない。
〝これは……大丈夫です〟
〝…今から行く〟
本当に今すぐ来そうな勢いで、どうか明日まで待って欲しいと伝える。
脹相はしばらく沈黙でねばるが、〝…明日になったら…お話、しますから……どうか今は…一人にしてください……〟と言えば、最終的には〝…わかった〟と引き下がったのだった。