第9章 菜虫化蝶
「…何でこれを私に?」
我ながら煮え切らない声音で問えば、琥珀色の時間越しに小枯がきょとんとした。
「だって今日はお前の大事な日だろ?しかも三十何回目の大層めでたい日だ。こちらとしても大事なものを送らざるを得ない…んじゃないのかと思ったんだが、何かちょっと違ったかな?初めてお前を祝うものだから、色々考えすぎて反って変な風になった…かも知れない。ごめんな。何か、うまく出来なくて」
「…そうですか」
鬼鮫はふっと笑って小枯の目尻を親指で撫でた。
うまく出来ないというあなただから。
「大事にしますよ」
こんなにも与えてまだ足りないと思うあなただから。
「ずっと、大事にさせて貰います」
この石はこれからもあなたを見守り続ける。私の首元で、私と共に。
「そうか。なら今度はお前を見守る石になるんだな、それは」
小枯が鬼鮫の目を覗き込んで、深く覗き込んで真顔で言った。
「大事に生きてくれよ。水辺で採れた石は泣く。そいつを泣かすんじゃないぞ」
「石に泣かれるほど色男じゃありませんよ、私は」
鬼鮫は笑って小枯を抱き締めた。
「私の為に泣くものがあるならば、それはあなただけでいい」
「泣かすより笑わせるのがいい」
「ではお返しを楽しみにしていなさい。楓蔦黄。三十余年時雨を越えて小春に色付くあなたをどう祝うか、私もその"初めて"をよくよく考えておきましょう」
「…何だ?誰に聞いた?」
腕の中の小枯が聞き返すのが可笑しくて、鬼鮫はより強く煙水晶を握り締め、小枯を抱き締めた。
「誰に聞いたかは問題じゃないでしょう?そう言うところをみればあなたは霜月生まれで間違いないようだ。せいぜい期待していなさい。今度は私が"つまらないもの"を考えてみますよ。あなたの為に」
弥栄