第8章 時雨と瑪瑙
微笑んでみせたら、小枯がぽかんとして自分に見とれたのがわかった。
こういう反応には慣れている。南天は綺麗だから。参の牟礼の青瑪瑙と呼ばれている程だ。
が、南天が弐の牟礼の時雨を知らなかったように、小枯もまた参の牟礼の青瑪瑙を知らなかった。
だからここで、ふたりは全くふたりのまま顔を合わせ、互いに見惚れ、そこはかとない好意を抱き合えた。
舞が終わり、奉納がすむまでのほんの束の間、この時間がなければふたりの先々の関わりはまた違ったものになったかも知れない。
「…あなたは随分綺麗ですね。青翡翠の羽か脱皮したばっかりの里回り(青大将)の喉みたい…」
目をパチクリさせた小枯の褒め言葉に南天は嬉しくなった。
それがどれだけ美しいか、南天も知っているから。
「あなただって、辺りを見回す山鼬か巣離れした若鹿みたいよ」
ふたりは顔を見合わせて笑った。
弐の牟礼の巫女になるコがこの子で良かった。仲良くやっていけそう。
小枯の無邪気な笑顔が、日溜まりの温みのように、初夏の白雲のように、ただ好ましくただ眩しく、南天は無性に嬉しくなった。
帰ったら初枯にこのコの話をしよう。
いつもの樹の下で土産話をしよう。
初枯がおうちから持ち出した冷やし飴を一緒に飲みながら、初めてだらけの今日の話をするのだ。
青翡翠の羽、里回りの喉。
そんな風に言われたと話したら初枯はどんな顔をするだろう。きっとにこにこしながら話を聞いてくれる。そうして、お前は俺の青瑪瑙だもの、と恥ずかしそうに言うだろう。いつものように。
南天は小枯を削る時雨も、小枯しか見ない霜刃もまだ知らない。
初めての場所で、初めて舞った晴れの日に、傷付く自分をまだ知らなかった。
弥栄