白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第19章 ○ 推薦入試 ●
いつもの時間にバイトに来るなら今頃、星歌は駅から棋院までを歩いているか、電車の中だろうか。
早く既読になってくれ…。緒方は祈るように画面を見つめる。星歌はもともとスマホの通知に振り回されるタイプではないが、今だけは気にしていてほしい。
徐々に、最悪の想像が頭を駆け巡る。こんなふうに待っているだけではダメだ、駅まで迎えにいこう…。そう思ったとき、制服姿の星歌が現れた。
星歌は緒方に気づき、小さく手を振っている。緒方は思わず駆け寄り、星歌を強く抱きしめた。
「…精次さん…?どうしたの…?」
星歌の声は小さく、驚きと戸惑いに揺れている。
「…近くで…事故があって…星歌が…巻き込まれたかと、思った…」
緒方は掠れた声で、途切れ途切れに呟くよう答える。
星歌は緒方の背中にそっと手を回して言う。
「…私、ここにいるから、大丈夫。電車が遅延してて、少し遅くなっただけだよ。心配させて、ごめんね」
「…無事で…よかった…」
緒方は星歌の肩に顔を埋めたまま小さく頷いた。
「緒方先生、またラブシーンかよ…」
2人の横を通り過ぎながら呆れた声色で進藤が言う。その言葉に星歌はハッと我に帰る。
「ラ…ラブシーンって…!精次さん、ここ棋院!」
星歌は慌てて緒方から離れようとジタバタとするが、きつく抱きしめられているため身動きがとれずにいる。
「言わせておけばいい」
「え?」
「進藤の言うことなんか気にするな。…もう少しだけでいいから、こうしていたい」
「…うん」
星歌はおとなしくなり、しばらくの間、緒方に身を委ねていた。
ロビーからは白川が、あたたかな眼差しで2人を見守っている。
「白川先生、あの2人またイチャついてるよ?」
進藤がまるで告げ口のように白川に言う。
「今日の緒方は、ずっと星歌ちゃんのこと心配して、ソワソワしてたからね。ちょっと大目に見てやってよ?」
「はー。もうハッピー緒方っつーか、イチャイチャ緒方だよ」
「進藤くん、上手いこと言うね」
白川は楽しそうに、そして優しい目をして笑っていた。