白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第1章 ◯ 十段戦とネクタイピン ●
対局が始まり、前半はわずかに緒方がリードする展開。この調子だ、あとは慎重に打って手厚く守っていけばいい…。緒方は盤面に集中し、行洋の鋭い手にも冷静に応じていた。
昼休憩になると一柳が軽妙に話しかけてくる。
「なんでネクタイピン外しちゃったの?似合ってたのに。恥ずかしがることなんてないさ」
緒方が答えに詰まっていると、別の棋士が一柳に声をかけたことで会話はそのまま途切れた。
「午後も頑張れよ」
そう言って一柳は緒方の肩を軽く叩いた。少し離れたところでは、一柳と棋士たちが話しているのが見える。…もしかして、ネクタイピンのことを話すだろうか…?他の棋士たちも笑うのだろうか…?一柳先生はオレたちのことを知っているが、何も知らない棋士たちはどう思うのだろうか…?と、疑問も湧く。そもそも、一柳先生はオレたちの関係を誰かに話しただろうか…?それでも構わない。ただ、噂が変に歪められて星歌がまた傷つくようなことがあったら…緒方は動揺する。
昼食後に対局が再開しても、緒方の心はざわついたままだ。盤面に集中しろ、冷静になれ…と自分に言い聞かせるが、細かな読みミスが重なって6目半差で敗北。くそっ、こんな碁じゃ…と、悔しさがこみあげる。
対局後、ネクタイピンを外した後悔と敗北の苛立ちが混じる。次こそ絶対に勝つ、勝ってタイトルを獲ると、闘志を燃やして足早に対局室を後にする。
「相当悔しがってるな」
背後で一柳がクスクスと笑う声が聞こえる。白川のからかいなんか比べものにならない、星歌の伯父は別格だ…。今日、一柳先生がいなければ…。いや、そんなことを負けた理由にするな、オレの弱さが問題なんだろ…。星歌の笑顔がオレの力だ。次はネクタイピンを着けて堂々と勝つ!と、強い想いを抱いていた。