白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第10章 ● 碁聖獲得 ○
その夜、星歌は自宅のベッドの中でまどろみながら、夏休み前のクラスメートの言葉を思いだしていた。
「なんとなく、ハッピー緒方に似てるよね」
あの映画の主演のアイドル。そんなに似てるかな?と思ったけれど、メガネをかけた姿は確かに精次さんに少し似ててカッコよかった。そして、映画みたいなキスのご褒美に憧れて思い切って言ってみたけれど…。あんなキスになるなんて思ってなかった。大人のキス…。精次さん、優しかった…。
そっと唇をなぞってキスの感触を思いだすと、頬が熱くなる。いつものキスよりもずっと恥ずかしくて、そして、気持ちよかった…。あのとき、ドキドキしすぎて壊れるかと思った。 このまま付き合ってたら、キスの先だっていつか…。でも、まだ怖いし、恥ずかしい。私は高校生だから先の話だって、付き合い始めたときに精次さんは言った。だから、まだ大丈夫だよね…。
…私、ご褒美、ちゃんとあげられた…かな…。精次さん、大好き…。
緒方は家で1人、缶ビールを手に佇んでいる。缶に口をつけると、ビールのほろ苦さとともに、あのキスの感触が思いだされた。舌先が触れ合う水音や星歌の柔らかな吐息がまだ耳に蘇る。
…大人のキス、そう言った瞬間、わずかな後悔がよぎった。でも、星歌はオレを受け入れてくれた。
「2冠より嬉しい」
あの言葉は紛れもない本心だった。碁聖も十段も、星歌の笑顔とは比べものにならない。あの唇の柔らかさ、ぬくもり…理性を保つのはギリギリだった。星歌の全てが欲しい。…だが、焦るな。ゆっくりでいい。星歌、キミはオレの最愛の人だ。いつか星歌の準備が整い、オレを選んでくれるときまで、きちんと待つから…。緒方は2人の未来に想いを馳せる。真夏の夜の夢のような1日だった。