白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第9章 ○ 勝利のご褒美 ●
8月の土曜日、都内のタワーの天望室は、人数制限を設けた特別営業が行われている。緒方は並んで立つ星歌の手をしっかりと握っている。星歌は眼下の街並みに目を輝かせている。濃紺地の大花柄の浴衣は、昨年の文化祭でも着ていた。…あの頃は、こんなふうに星歌と付き合うことになるとは思ってなかったな…と、緒方は過去を振り返っている。星歌の華奢な手首には、緒方の贈ったひまわりモチーフのブレスレットがキラリと輝き、2人の愛をさりげなく主張している。
「精次さん、見て!」
星歌の瞳が、花火を捉えている。ガラス越しに、自分たちよりも低い位置で開く、大輪の花。
「花火を上から見るのなんて初めて!」
はしゃぐ星歌の姿に、緒方の心は満たされていく。緒方は繋いでいた手を離して、星歌の腰を抱き寄せて言う。
「混んでるから、オレから離れるなよ?」
「うん…」
星歌は恥ずかしそうに頬を赤らめながらも、緒方に身を委ねている。
花火を見に行こうと言ったとき星歌は「ハッピー緒方」ってバレるんじゃ…?と心配していたが、誰もオレたちのことなんて見ていない。目に入るのはそれぞれのパートナーと花火だけだ。そっと周りを見渡した緒方はそう思う。1組のカップルは、誰にも見られていないだろうと思っているのか熱いキスを交わしている。こんなところで…と呆れつつも、人目を憚らない堂々とした愛情に、羨ましさのような気持ちも芽生える。
「精次さん、花火見てる?」
星歌の上目遣いに思わずドキリと胸が高鳴る。
「ああ、見てる。花火より星歌のほうがきれいだ」
「…またそんなこと言ってる…」
星歌は困ったように答えつつ、緒方に寄り添ってくる。
「あと1局、勝ったらご褒美、だな」
緒方が耳元で囁くと星歌は驚いたように顔を上げ、再び上目遣いで緒方を見る。
「欲しいもの決まった?」
「…勝ったら言う」
「うん」
ひときわ大きな花火が上がり、色とりどりの光を放つ。それはまるで、2人の未来を照らしているようだった。