白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第9章 ○ 勝利のご褒美 ●
リビングのソファに、緒方と星歌が並んで座っている。気になっていた映画はひと通り見てしまい、今夜は何を見ようかと、緒方はリモコンで画面をスクロールしている。
突然、星歌が声を出す。
「これ、クラスの子が見たがってた」
売出し中の若手女優とイケメンアイドルによるラブロマンス。タイトルやキャッチコピーからストーリーが簡単に連想できる陳腐な作品だ。
「この人、カッコよくておもしろいから割と好き」
主演のイケメンアイドルについて話した星歌の言葉が、緒方の胸をチクチクと痛める。どうしてこんな映画を…。そう思いつつも視聴を始めた。
「あなたなしでは生きられない」
「今度の試合に勝ったらご褒美」
…ありきたりなセリフ。当人にとっては紆余曲折だが、いい年をした大人から見ればどうってことない出来事の連続。そしてお約束のハッピーエンド。
映画が終わると星歌は笑う。
「思ってた通りの話だったね」
そして、ふと、映画のセリフをなぞらえるように言う。
「精次さんも、碁聖戦に勝ったら…ご褒美、ほしい?」
緒方の胸がドクンと高鳴り、マグカップを置く手が止まる。
碁聖戦。塔矢行洋の引退により空位になったため、挑戦者決定戦の決勝進出者2名による5番勝負が行われることになった。3勝したほうが碁聖になる。緒方の相手は乃木九段。
「ご褒美…か」
緒方はソファに深くもたれて、星歌の顔をジッと見つめた。
「何か欲しいもの、ない?」
星歌は首を傾げながら聞く。
映画でのご褒美はキスだったが、オレはもっと先が欲しい…。でも、こんなこと星歌に言えるか…?葛藤がよぎる。
「何でもいいのか…?」
「あんまり高いものはダメだけど…」
「…勝ったら考えよう」
少し困ったような表情を見せる星歌の頭を優しく撫でてから、緒方はコーヒーのおかわりを淹れるために立ち上がった。