白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第8章 ● ゲリラ豪雨 ○
雨は小降りになり、窓ガラスを伝う水滴が午後の光を虹色に散らしている。緒方と芦原がカフェへ入ると、カウンターの奥に、星歌の姿。
髪は1つにまとめられ、濡れはもう気にならない。濡れたスカートとローファーは、バイト用のスキニーデニムとスニーカーに変わっている。
緒方のTシャツは星歌の華奢な肩にぶかぶかと掛かり、裾は太ももまで届いている。それを見た芦原が呟く。
「彼シャツだ…」
その瞬間、緒方の胸がドクンと高鳴る。星歌が、オレの服を着ている…。
「星歌ちゃん、今日、なんか服の雰囲気違うね?ずいぶんダボっとしてるよ?そういうの流行ってるの?」
「えっと…。いつものTシャツが…雨で濡れちゃったんです…」
星歌は顔を赤くして俯く。
カウンターに座る桑原本因坊がケラケラと笑いながら、必要以上に大きな声で言う。
「緒方くんの服じゃろ?」
常連客たちは腑に落ちたように何度か頷いてから答える。
「ああ、なるほどね」
カフェ中があたたかな視線で包まれる。
星歌は、ウエストの辺りで余ったTシャツの生地をギュッと握り、呟く。
「…ちょっと大きい…」
緒方は平静を装っているが、胸の奥では熱いものが渦巻いている。星歌が、オレの服を着ている…。こんな姿、他の誰にも見せたくない。だが、こうしてみんなに知られるのも、星歌はオレのものだと示しているようで悪い気はしない。
芦原がそっと言う。
「幸せそうですね、緒方さん」
「…うるさい」
静かに返す緒方の耳が確かに赤いのを、弟弟子は見逃さない。尊敬する兄弟子と、かつて好きだった女の子、2人が幸せそうでよかった…。芦原はそう思いながら、ストローでグラスの中をかき混ぜている。以前は、2人の幸せを願いつつも心がチクチクとすることがあった。だが今日の2人の様子を見て、そんな想いはすっかり鳴りを潜めた。クールに見える兄弟子は星歌に対して熱い思いを抱いているし、彼女はそれを穏やかに受け止める。
「お似合いの2人だな…」
芦原はそっと呟き、ミルクと完全に混ざり合ったアイスコーヒーを1口飲んだ。
本格的な夏はすぐそこ。いつの間にか雨は上がり、空には小さな虹がかかっていた。