白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第8章 ● ゲリラ豪雨 ○
夏のイタズラのように、午後の空は一瞬で色を変えた。雲が低く垂れ込め、ギラギラとした太陽が隠れると同時に、大粒の雨がアスファルトを打ちつける。
棋院の対局室では、芦原が窓の外を見て言う。
「またゲリラ豪雨ですね…。星歌ちゃん、もうすぐバイトの時間ですけど大丈夫ですかね?降られてなきゃいいですけど…」
緒方は碁盤の石を置く手を止める。
「…ああ」
そろそろ、星歌が来る時間だ。この雨の中、大丈夫か?
検討を切り上げて2人で1階へ降りると、ロビーのガラス越しに雨脚が激しさを増している。傘を差す人もなく、通りは水浸しになっていた。
「ひどい雨だな…」
緒方が呟くとほぼ同時に、びしょ濡れの星歌が息を切らして駆け込んできた。
傘も差さず、制服の白いブラウスは肌に貼りつき、髪から水が滴る。太ももの露出を気にしながら、プリーツスカートを手繰り寄せるようにギュッと絞る。その様子は、あまりにも無防備で扇状的であった。
こんな姿、他の誰にも見せたくないと、緒方の顔がカッと熱くなった。星歌に駆け寄り、脱いだジャケットを肩にそっと羽織らせる。
「精次さん…濡れちゃうよ?」
小さな抗議に緒方は低く答える。
「そんな姿を…他の男に見せるな」
胸の奥で独占欲が熱く渦を巻く。
傘を差した進藤と和谷が、話しながら現れた。
「傘持っててよかった〜。このタイミングで降るなんてな」
「進藤、お前が傘持ってるの珍しいよな?」
「幼なじみが、折りたたみ傘はいつも持ってなきゃ!って、うるさくてさ」
進藤は床の水たまりを避けながら、緒方と星歌に視線を止める。髪の濡れた星歌にジャケットを羽織らせ、緒方が肩を抱いている。中学生には少し刺激の強い光景だったようで、思わず口が開く。
「緒方先生、なんかエロいなぁ」
瞬間、緒方の目が鋭く吊り上がった。
肩をすくめる進藤を、和谷が慌てて肘で小突き、小声で諌める
「バカ!何言ってんだよ!」
…星歌のこんな姿を、お前なんかに見せるか。緒方はそんな思いで進藤を睨み続ける。星歌はジャケットをしっかりと掴み、真っ赤な顔で俯いていた。