白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第6章 ● 囲碁ゼミナール ○
週末の午後。緒方家の玄関が開き、星歌の声が静かに響く。
「精次さん、こんにちは。今日、結構暑いね」
「まだ5月なのに、もう夏みたいだな。アイスティー飲むか?」
「うん、ありがとう」
星歌は半袖のカットソーに薄手のカーディガンを重ねている。トートバッグを片手に、脱いだ靴を揃えてから、慣れた動きでキッチンへと進む。
「サラダとチーズケーキ、作ってきたから、あとで食べようね」
「ああ、楽しみだな」
星歌は冷蔵庫を開け、丁寧にタッパーを収めた。
その隣で緒方は紅茶を淹れている。
2人でソファに並んで座り、身を寄せ合う。
「囲碁ゼミナール、どうだった?」
星歌が目を輝かせて聞くが、緒方は苦笑いを浮かべる。
「順調だったが、十段祝いの飲み会から帰ってきて、進藤と打ったら大負けした」
「え…?飲み過ぎじゃないの…?」
心配そうな瞳に、緒方は肩をすくめる。
「確かに、したたかに酔っていたからな」
緒方はあの夜のことを思いだす。「彼女はオレの最愛の人です」そう言い切ったとき、胸の奥で何かが弾けた。十段のタイトル獲得、星歌と恋人同士になれたこと、それらの喜びがジワジワと湧いてきた。
「十段を獲れたことと、星歌と恋人同士になれたことが嬉しくて…つい飲みすぎたんだ」
「…でも、飲み過ぎは心配だよ」
「気をつける。約束だ」
「うん、気をつけてね?」
…星歌はオレの力だ。もっと強くなって、守り続ける。
「ねえ、今日は何見よう?精次さん、何か見たいのある?」
「そうだな、去年話題になっていた作品の配信が始まっていたと思う」
「じゃあ、それにしよう」
緒方がリモコンを操作して、動画がスタートする。週末には、2人でこうして過ごす時間が多くなっている。季節が春から夏へと移ろう頃、2人は少しずつ愛を深めていた。